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春を迎える田んぼの生き物たち/冬水田んぼ

(後半にカエルやクモの写真も載せています。苦手な方は薄目で読んでください!)

「湿原」
と聞いてどんな風景を思い浮かべますか?

わたしは、青々とした緑が一面に広がっていて、土はぬかるんでいる、そんなイメージ。
と言っても、実際に見たことあるのはおそらく1回で、あとは写真やらテレビやらで見た記憶をつなぎ合わせてこのイメージが浮かんでいるのだと思う。

正直、わたしにとっては馴染みのある存在ではありません。

このnoteを読んでくださっている方の中には湿原が身近にある方もいると思いますが、わたしと同じようにはっきりイメージできない方も多いでしょう。

なくなる湿原

それもそのはずで。
湿原って明治・大正時代に比べるとかなり減少しているようで、わたしたちがあまり身近に感じられないのも仕方ないんです。

わたしの森の師匠曰く、かつては「豊葦原の瑞穂の国とよあしはらのみずほのくに」と言われたほど、日本には湿原が広がっていたそうです。

豊葦原の瑞穂の国とよあしはらのみずほのくに」というのは、古代神話の中の国土の美称びしょうのひとつらしく、稲が豊かに生い茂るすてきな国だねってこと。
『古事記』や『日本書紀』にも書かれている言葉。

数字としても明確で、
明治・大正時代には、日本全国に2110.62㎢の湿地があったようですが、1999年には土地開発などの影響によって、820.99㎢にまで減少していました。

*国土地理院1999

数字が大きいのでイメージしにくい部分がありますが、東京ドーム44,906.8個分から東京ドーム11,467.9個分に減ったらしい。(さらにわかりませんね。)

まぁでも、東京ドームが3万個なくなったということは、とにかく多くの湿原・湿地が失われたのでしょう。

これで心配なのは、その土地に住んでいた生き物。

人間にもなんとなく「肌に合う」環境ってありませんか?
水が合うとか人が合うとか、空気が合うとか。もうここでしか生きられない!とか。

そんな感じで、虫や鳥、爬虫類などさまざまな生き物にとっても住む環境って大事。人間以上にその地に依存している生き物は多い。

森には森の、湿地には湿地の、生態系が存在しています。

なので、湿地・湿原を好んで棲んでいた生き物たちは、それらが失われると生きる場所がなくなってしまう。もう日本では生きながらえることができなくなってしまうわけです。

湿地・湿原が失われつつある今、どうやって彼らは生きる場所を見つければいいのか。
実は、湿地・湿原に近い環境があるんです。

それは、田んぼ。

稲とぬかるんだ土。まさに湿原にちかい!

田んぼは、湿地・湿原に代わって、彼らが生きることができる場所。

じゃぁ安心だ。問題ない!

かと思うと、そういうわけでもなくて。

田んぼ面積も減少している上、農薬を使用するところも多く、彼らが生きていけない場所も少なくない。

湿地・湿原を守っていくことはもちろん、こうした田んぼも彼らが生きていける環境にしていかないと、彼らは本当にいなくなってしまいます。

今回は、この田んぼでのわたしの森の師匠の取り組みについてお話ししようと思います。

田んぼがわたしたちの飲み水にも影響している

「冬水田んぼっていって休耕の時に田んぼに水を張っておく農法なんだけど」
とある日師匠が話し始めた。

師匠、森だけでは事足りず、田んぼにまで手を出しているのか!と少しばかり衝撃を受けていたら、どうやらそれもちゃんと天然水の森の活動の一環らしい。

ビール、ウイスキー、あとお茶など、サントリーではさまざまな飲料をつくっていますが、
そのほとんどすべてに地下水が使われています。

森など大地に降り注いだ雨が、ゆっくりと地中深くまで浸透していき、その間にろ過され、さらには岩などに含まれるミネラルが溶け込み、わたしたちが普段いただいているおいしい水になります。

それが地下水、天然水です。

サントリーはその水を使って、さまざまな飲料をつくっているということです。

その水を守るためために、師匠は森でさまざまな活動をしているのですが、田んぼでの活動も水を守ることにつながるらしい。

それが、<天然水の森 阿蘇>の下流にある益城町津守地区での冬水田んぼの活動。

ちなみに<天然水の森 阿蘇>で育まれる水は「天然水 阿蘇」やビールとなり、わたしたちの元へ届けられています。

▼詳しくはこちら

これは他人事ではないですね。

冬水田んぼというのは、冬の休耕の時期に田んぼに水を張っておく農法のこと。

冬水田んぼの様子

ここに張った水がやがて、地下に浸透して、おいしい水へと育つ。

上流の森をきちんと豊かにすることで、冬の川の水量を増やし、それを田んぼに流し込んでいる。

この地域では、山と川、そして田んぼが一体となった整備が進められているみたいです。

ほとんどの田んぼでは休耕時は水を抜いてしまいます。

ただ、扇状地に広がるここの田んぼは、わたしたちがいただく水を育む上でとても重要な場所にあります。

というのも、さっき<天然水の森 阿蘇>で育まれた水がわたしたちの元に届けられているという話をしましたが、まさにこの場所は<天然水の森 阿蘇>にある工場(水やビールをつくる)に直結しているみたいです。

この地域は水が染み込みやすい地層が露呈していて(“ザル田”というらしい)、ここに水を張ることで、多くの水を育むことができる。将来的に、おいしい水を守ることにつながるというわけです。

師匠の活動は水を守るための活動。やっぱりちゃんと一貫していましたね。

「そして、水を育む大事な場所だから、できれば農薬や化学肥料を使わない有機農法にしたいわけ」

それは、すてきなことだ。
わたしたちの飲み水になっている田んぼで有機農法なのは、とても安心できるし。

とはいえ、なぜ農薬が存在するのかを考えてみると、それは稲を病気や害虫から守るため。

有機農法は理想だけれど、稲が枯れちゃう恐れもあるし、農家の方にとっては大変なことのように思えますよね。

「生物多様性があれば、稲の病気や害虫がかなり減ってくれるんだ。多様な微生物が棲んでる田んぼでは、病原菌が繁殖しにくくなるし、害虫は害虫にとっての天敵である生物の多様性でほぼ守ることができる。」

なるほど。農薬をまかなくても、生物の循環で解決できるのか。

田んぼの防衛軍たち

有機農法を実現するために、キーとなるのが「生物多様性」。
森でも生物多様性が大事、と師匠から聞いていましたが、田んぼでも大切なんですね。

例えば、この九州の田んぼでもっともやっかいなのは、トビイロウンカ。
毎年ベトナムから季節風に乗って、中国や台湾に移動、そしてジェット気流に乗ってはるばる日本の南西部にやってくるらしい。

そして、稲の収穫期に稲を枯らしたかと思いきや、冬を越せず、死んでしまう。

なんてやっかいなトラベラーだ。

しかも、新しい農薬に対しても2、3年で耐性を持ってしまうという強者らしい。

そこで活躍するのが、田んぼの防衛軍たち。

トビイロウンカをエサとする生き物が増えれば、彼らを食べてくれるというわけです。

そして、トビイロウンカが来る前に、その防衛軍たちを増やすためには、どうしたら良いか。

それは、彼らが「ここ棲みたい!」と思えるエサがあること。

そのエサとなるのが、田んぼの場合ではユスリカというらしい。

見た目は、一見蚊。
でも蚊みたいに血を吸ったりはしません。

団体で飛んでいたりすると(蚊柱)、結構うっとおしい気がしますが、それ以外は害がない。

しかも幼虫はアカムシといって、小魚たちのエサになります。

彼らがいれば、田んぼの防衛軍たちが徐々に集まってきて、やがて田んぼの生物多様性が復活します。

ユスリカは、生物多様性のスターターと呼ばれています。
ユスリカがいれば、いずれその地は生物多様な場所になるという、バロメーターのような存在です。

そしてユスリカは、有機肥料をいれ、水を張っておけば1年中いるみたいなので、そういう意味でも冬の間も水を張っておくことが大事なんです。

ということで、
田んぼの防衛軍たちって誰なんだいって話ですが。

たとえば、カエルです。

ユスリカなどのエサがあり、水辺を好むカエルは冬水田んぼをしている場所のほうが、していない田んぼに比べて種類も数も多い。

トノサマガエルみたいな、ドンッとしたカエルは、
地面近くの虫たちを食べ、

田んぼの水に浸るトノサマガエル

ニホンアマガエルなどの小さなカエルは、この写真のように稲をよじのぼり、トビイロウンカも食べることができる。

葉っぱの上にいるニホンアマガエル

トビイロウンカからの被害を防ぐには
ニホンアマガエルの存在は結構大切みたい。

あとは、トンボやクモもそうです。

トンボは空中を飛んでいるトビイロウンカなどの虫を食べ、

稲にとまるトンボ

クモは稲に巣を張るので、稲に飛び込んでくる虫をキャッチしてくれたり、地上を歩いて食べたりしてくれます。

米粒に悪さ(米粒を吸って穴を開けてしまう)をするカメムシを捕獲する蜘蛛

さらに、ツバメやアオサギなどの鳥もやってきます。

こんなふうに生物多様性が保たれた田んぼでは、稲を病気や害虫からほぼ守ることができます。

「まだ解決されていない部分は多いけど、立命館大学の久保教授が土壌の微生物などの分析とか徹底的に調査して、この田んぼにあった有機肥料の処方箋を作ってくれたんだよね。それのおかげで収量は増えているし、スターターのユスリカが増えてきてるから、春になったらもっといろいろな生き物に会えるんじゃないかな。」

実は、師匠はさまざまな分野のプロの人たちと一緒に活動しています。この冬水田んぼもそうです。

「こんな風にこの田んぼにあった有機肥料の処方箋を書ける人はいなかったからね。」

すでにここの田んぼはさまざまな生き物でにぎわいつつあります。

先ほど紹介したニホンアマガエルも数はまだ少ないようですが、いるみたいです。
あとはゲンジボタルやカメ、魚も。

どんな生き物がいるか、こちらのサイトで見ることができます。

このサイトはこれまた一緒に活動している九州大学の鹿野先生が作られたWeb図鑑。

こんな風に3Dで360度生物を観察できたり、

こんな角度からも見ることができる(ちょっと恥ずかしいね)

鳴き声を聞くことができたりできます。

え、カエルってこんなきれいな鳴き声するんですね。
ゲロゲロとしか鳴かないと思ってました。全然知らなかった。
落ち着く鳴き声で、勉強中のBGMとかに良さそう。

そんな風に新しい発見があると思うので、ぜひみなさんもあそんでみてください。おすすめです。

「結局さ。」

「はい。」

「水を守ることを考えて活動してきたけど、水を守るためには生物多様性を守らないといけないんだよね。それがいろいろな活動を通して、科学的にもわかったんだ。」

師匠の話を聞いていると、確かに、一見水と関係のない話が多い。
微生物がどうのこうの、土がどうのこうの、植物、鳥、虫、きのこ・・・。

これら全て、実は水を守るための話で、すべてが一貫していたんです。

水を守るためには単純に水のことだけを考えればいいわけではなくて、今回の田んぼの話のように生物多様性を考えなくてはいけない。

水を守るために、自然を再生していく、生物多様性を取り戻す、この『ネイチャーポジティブ」の実現が必要不可欠なんです。

「天然水の森の活動って、ずっと、いわば『ウォーターポジティブ』でやってきたんだけど、それってつまり『ネイチャーポジティブ』とイコールなんだよね。」

そんな『ネイチャーポジティブ』を目指している、師匠をはじめとするサントリーの活動についてまとめた“生物多様性「再生」レポート”があります。

よかったらこちらから見てみてください!

https://www.suntory.co.jp/company/csr/data/report/pdf/biodiversity_report.pdf


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