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誰が袖の 触れし花かも/あの日、天然水の森で。

2003年から始まった「サントリー天然水の森」の活動。
実は、この公式note「森に、あう。」を担当している”わたし”の父もコピーライターとしてこの活動に携わらせてもらっています。そして、時々師匠と一緒に森に入っては、森の小さな小さな営みをカメラで捉え、エッセイを書いていました。
今も昔も、変わらず森には生命いのちがめぐっています。それらを、ちょっと前のエッセイから感じてみよう、というシリーズです。

神宮川が刻む深い谷の対岸から、
サントリー「天然水の森 南アルプス」の姿を遠望しようと
辿った、日向山(ひなたやま)への登山道。
頂上まで道半ばという辺りで、数回、同じ花の出迎えを受けました。
名を、“タガソデソウ・誰袖草”。

“誰が袖”とは、いかにも謂れのありそうな表現です。
調べてみると、古今集の春上に見られる、
「色よりも香こそあはれと思ほゆれ誰が袖触れし宿の梅ぞも」
という歌に由来する匂袋(においぶくろ)の名、
という解説が、最初に記されていました。

けれども、たとえその意味を知らなくても、
“誰が袖”という言葉には、淡いトキメキのような愛おしさを覚えさせる何かがあるように思えました。王朝の人々とは、
さまざまに異なる時代を生きてはいても、あ、私、やっぱり
日本人なんだ、と、改めて、しみるように気付かせてくれる何か。
紫式部の一人娘、大貳三位(だいにのさんみ)が残した、
「春ごとにこころをしむる花の枝に誰がなおざりの袖か觸れつる」
という歌にも匂い立つ、何かです。

2011.06.05|サントリー天然水の森 南アルプス

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